持続可能な引出率

要旨

  • 持続可能な引出率とは、資産総額に対する毎年の引出額の比率のことで、退職後の生活期間全体にわたって資産から引き出し続けたとしても、資金が枯渇しないような額を想定しています。
  • フィデリティの経験則によると、退職1年目の引出額を資産総額の3.9%以内にとどめ、その後はインフレ率に応じて毎年の引出額を調整することが望ましいと考えています。
  • 持続可能な引出率は、自分でコントロールできない要因(余命、インフレ率、市場収益率など)と、自分である程度コントロールできる要因(退職年齢など)によって変わってきます。
     

退職に向けた資産形成を考える上で重要となる4つの指標(資産形成比率、年収倍率、個人資産代替率、持続可能な引出率)と、各指標間の関係性
レポート:退職に向けたロードマップ

退職に向けた資産形成を考える上で重要となる4つの指標(資産形成比率、年収倍率、個人資産代替率、持続可能な引出率)と、各指標間の関係性

退職後に備える関連する4つの指標

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数十年にわたって資産形成を続け、退職した後は、その資産を取り崩す生活が始まります。しかし、足りなくなることを心配せずに毎年どれだけの資金を引き出すことができるでしょうか?最近では退職後の期間が想像以上に長くなったこともあり、この答えは重要であり、長期的視点に基づいて戦略を立てる必要があります。

持続可能な引出率

我々は、長期にわたる市場データに基づいて多くのシミュレーションを行い、信頼度90%(退職後にインフレ調整後の支出計画が、シミュレーションの少なくとも90%で成功)の「より保守的な計画」を採用しています。この条件では、退職1年目において引出率を資産総額の3.9%以下に抑え、インフレ分の調整をして毎年引出していくことができます。
 
もちろん、個人によって状況は異なります。例えば、退職後の早い段階で旅行を多く計画している人は、その時に多く引き出し、晩年には引出額を抑えたいと考えているかもしれません。しかし、退職について計画し始める際には、この持続可能な引出率の経験則が1つのガイドラインになると言えるでしょう。

具体例をみてみましょう。67歳で退職し、退職時の資産が5000万円ある方を想定します。退職後の生活のために、資産額の3.9%(195万円)を毎年引き出すことにしました。生涯にわたり、インフレを考慮しながら資金を引き出す計画なので、この195万円が基準値になり、市場動向や資産の時価総額がどう変わっても、インフレ率(1%を想定)の分だけ引出額は増加することになります(注記1)。
 

持続可能な引出率―3.9%で設定した場合

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出発点:3.9%の目安

もちろん、3.9%は考え方の出発点に過ぎません。我々の分析やここで紹介しているツールをみていただければ、自分である程度コントロールできる要因(退職年齢など)を明確にすることで、より正確な数値を算出できることがわかります。

退職後の生活年数を考える

引出額の計算において最も重要な要因の1つは、退職後の生活年数です。何年間の生活費をこの資産で賄う必要があるのかという点です。他の条件を同じとすると、退職後の生活年数として想定している期間が長ければ長いほど、持続可能な引出率は低くなります。例えば、67歳で退職すると計画し(人生設計年齢を93歳で、退職後の期間は27年間)、資金が不足しないという条件に対して90%の信頼度を持つ「より保守的な計画」を設定すれば、その引出率は3.9%と計算できました(注記2)。
しかし、例えば退職年齢を70歳に延ばし、退職後の期間が短くなるように想定すると(人生設計年齢を93歳、退職後年数24年間)、信頼度90%で資金が枯渇しない持続可能な引出率は4.4%となりました。
逆に、退職年齢を62歳に早めると(人生設計年齢を93歳で退職後年数は32年間)、90%の信頼度で資金が枯渇しない持続可能な引出率は最大で3.4%でした。もちろん、退職後の計画に配偶者やパートナーが含まれる場合には、各人の平均余命だけでなく、1人だけが生き残る余命を考慮する必要が出てきます。
これらの条件の違いはわずかであるように思われるかもしれませんが、退職後年収に大きな差が出る場合があります。

退職時期が遅いほど、持続可能な引出率は低くなる

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(注) 数値はイメージを示すものです。過去のデータをもとにシミュレーションを行った結果。一般的な株/債券/現金の比率を年齢に応じて変化させる資産配分方法を前提にさまざまなマーケット・シナリオを検証しています。4つの退職年齢に応じた最大の持続可能な引出率(ここでは90%の信頼度でなくなるまで資産が枯渇しないと想定される引出率)。詳細は注記を参照下さい。人生設計年齢は、25%の生存確率(将来の変更は想定せず)で算出しています。

信頼度の水準も重要な要素

生涯にわたって資産が枯渇しないという信頼度の水準も、持続可能な引出率に影響します。
図で示されているように、信頼度50%でシミュレーションを行った結果、退職後年数27年における持続可能な引出率は4.7%以上です。
持続可能な引出率に対して、より高い信頼水準を求める場合、例えば信頼度90%(10のシミュレーションのうち、9つで引出率が持続可能であることを意味する)なら持続可能な引出率は3.9%、信頼度を95%に引き上げれば、持続可能な引出率は3.8%となります(注記3)。
 

より高い信頼水準を設定すれば、引出率は低くなる

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(注) 数値はイメージを示すものです。全ての結果は理論上のものであり、長期にわたる過去のデータに基づくリターン、ボラティリティ、相関を用いたシミュレーションに基づいています。退職後の年数を67歳から93歳までの27年間と想定して算出。重要な詳細については注記3を参照ください。
 信頼度は、「持続可能な引出率で算出し、インフレ率で調整した後の引出額」でも資産が枯渇しないシミュレーション上の確率を示しています。

すなわち、想定される退職後の年数や、信頼度など、様々な視点から引き出しに伴う資産の枯渇の可能性について考察することが重要なのです。

結論

多くの人にとって、退職後の資産の取り崩しについて想定することは難しい課題です。平均余命、市場のパフォーマンス、インフレ率、税金などといった様々な不透明要因が存在することを踏まえると、それは当然でしょう。フィデリティが提示した考え方は1つの出発点ですが、退職後における持続可能な引出率を判断する際には、こうした不透明要因に加え、個人的な状況などについて各自で考える必要があります。

参考

自分の健康や家族の病歴などに基づいて、どれだけ長く生きると考えられるかを推測する。多くの人は寿命を短く見積もる傾向があるため、保守的な計画が望ましいだろう。
どれだけの投資リスクを許容できるかを判断する。
適切な資産配分を選択する。
資産が底をつくことがないよう、成功の可能性が十分に見込まれる引出率を選択する。
 

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持続可能な引出率に関する注記:

本サイトに記載の内容は情報提供を目的としており、特定の投資家の投資ニーズに合わせたものではありません。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。投資にはリスクが伴います。投資の価値は時間の経過とともに変動するため、収益を上げる場合、または損失を被る場合があります。
 

  1. 資産形成をする現役の期間から資産の取り崩しを行う退職後の生活期間までインフレ率を平均して1%と想定しています。この引出率とは、保有する資産に対する最初の年の引出額の比率として算出され、その後の引出額は実質値(インフレを考慮して)で変わらない水準が続くと想定しています。この結果は、過去の市場データに基づく各資産クラスのリターンやボラティリティを用いた複数の市場シミュレーション、平均余命に関するデータ、一般的なインフレに関する前提、並びにユーザーから提供される退職年齢、性別、及び人生設計状況(独身、または配偶者など)などに基づいています。
  2. 「退職後の期間が長ければ長いほど、持続可能な引出率は低くなる」という関係は、シミュレーションに基づいて導き出されたものです。持続可能な引出率を算出する上で、退職後の期間として、退職年齢からその年齢の25%の生存確率(簡易生命表による)となる年齢までの余命を前提としています。例えば、独身男性が67歳で退職する場合、25年間を退職後の期間と想定し、独身女性が67歳で退職する場合、30年間を退職後の期間と想定しています。夫婦の場合、どちらかの配偶者が生きている可能性があることを前提とした連生生存推定を行い、これにより前提とする退職後の期間は31年間と長くなります。年齢が異なる夫婦の場合、平均年齢を計算し、連生の人生設計期間を見積もります。このシミュレーションでは、過去の市場データに基づいてリターン、ボラティリティ、相関を推定し、株式/債券/キャッシュの資産ポートフォリを「年齢に基づく」配分に変えながら様々な市場環境下で検証しています。退職年齢毎に持続可能な引出率を示しているチャートは、90%の成功率(成功とは、仮説に基づくシナリオにおいて、退職後の特定期間を通じて一定の実質支出を維持できることと定義しています)を前提にしています。25%の生存確率(性別区分なし)となる93歳までの人生を前提としています。
  3. 「求められる信頼水準が高ければ、持続可能な引出率は低くなる」との関係は、シミュレーションに基づいて導き出されたものです。それぞれの理論的なポートフォリオにおける最大引出率を、それぞれ95%、90%、75%、及び50%の信頼水準でお金を使い果たさない水準として計算しています。なお、ツールでは、理論上、市場シナリオの95%の可能性(95%の信頼度)で退職後に資産が枯渇しない「保守的な引出率」と同90%の可能性(90%の信頼度)で枯渇しない「標準的な引出率」を示しています。
    株式(国内及び海外)、債券、キャッシュの月次のリターン・データ、及びインフレ率は、様々なインデックスを参考に算出しています。株式、債券、及び短期の資産クラスのリターンやボラティリティは、ブルームバーグ及びデータストリームから入手した1990年~2017年までの過去の年間データに基づいています。具体的には、株式(国内及び海外)はMSCI オール・カントリー・ワールド・トータル・リターン・インデックスを、債券はバークレイズ総合トータル・リターン・インデックス(バリュー(ヘッジあり・円・ベース))う、短期の資産クラスは3ヶ月物LIBOR金利を使っています。
    ポートフォリオは毎月末にリバランスされますが、その取引コストは考慮しておらず、手数料も考慮されていません。これらのコストを反映すれば、ポートフォリオのリターンは低下します。資産配分や分散投資は利益を約束するものではなく、損失の回避を保証するものでもありません。全てのインデックスは運用対象商品ではなく、インデックスに直接投資することはできません。理論的な計算では、手数料などの費用が反映されておらず、実際の投資リターンは通常、その分低下します。また、税金も考慮されていません。